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2015/01/29

冬を生き抜く鳥


20150129

 昨日までこの時期にしては穏やかな日が続いていたが、今日からしばらくは、寒気が急に強まるという。鳥取では雪も降るらしい。
 そんな話を聞くと思い出すことがある。

冬は鳥たちにとっても厳しい季節だ。雪が、彼らの餌を覆い隠す。わずかに、ナンテンやヒサカキ、サルスベリ、アオキなどの実が、白い雪の中で鮮やかに赤や紫の顔を出すところへは、たくさんのヒヨドリが集まり争いが起こることもある。わずかな餌を巡って、生き残る争いなのだ。
 とくに急に気温が下がったときなど、鳥たちにも危険が増す。

 数年前の冬の日、学生が、電話で、「大学のキャンパスで鳥がケンカして動けなくなっています」と連絡をしてきた。やはり、急に気温が下がった日だった。
 ちょうどデスクワークに疲れていたときだったので、これ幸い(理由ができた)とばかりに、その場所へとんでいった。大学の建物の壁を覆うツタの実の下だった。雪が一面を覆っていた。
 
 ヒヨドリだった。学生の話だと「他の鳥に馬乗りになられ(鳥が馬乗りとは!)、嘴でつつかれていた」ということだった。学生が近寄ったら、馬乗りになっていた鳥は、逃げていったという。
雪の中に、一羽のヒヨドリが横たわっていた。頭をひどくつつかれたようで、皮膚が見え、血も見えた。

私が近寄ると、顔をこちらに向け、直後逃げるような動作を示すが、思うように体が動かない、といった様子だった。飢えと寒さと、激しい攻撃で、神経系がうまく作動しなかったのかもしれない。
私は、この寒さの中、ほおって置かないほうがよいだろうと判断し、研究室につれて帰った。

私は少し考え、コーヒー用のミルクを湯に溶かして与えることにした。スポイトで口から少しずつ流し込んだ。ヒヨドリは最初、首を振って嫌がったが、やがて、多少こぼしつつも、積極的に飲むようになった。喉も渇いていたに違いない。

それからの数日間、飼育カゴの中に与えたミカンも自分からつついて食べるようになり、着実に元気になっていった。
カゴの外に出して、飛翔の様子も見たが、部屋の中を器用に、力強く飛び回り、机や本棚の上に着地しリラックスした様子で羽づくろいなどをしていた。私がつかむと、元気に指に噛み付いてきた。

いつまでも飼っておくわけにもいかない。野鳥は飼育も難しく、突然体調を崩すこともある。春にはまだ一ヶ月近くあったが、野生の中で自力で生きるほうにかけるべきだ。
横たわっていた場所に連れて行き、放してやった。晴天の日で、青と白と緑の世界へ羽ばたいていった。

言い忘れたが、頭の負傷は、毛に埋もれて見えなくなっていた。
野生の中で生き抜くことの厳しいさを改めて思ったのだった。