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2015/05/02

今、ゼミ室の海産動物水槽内で起こっていること



岩戸の岩場の海岸で採集してきた動物達(詳しくは「春の海岸とイソギンチャクとクマノミと」をお読みください)のその後の話である。

私が、「神の右手」と呼ばれている業を使って採集したイソギンチャクは、彼らが動物であることを改めて、我々に認識させてくれた。

同じ日に採集され、並んで落ち着いていたかに思えた岩の窪みから、相棒のイソギンチャク(上の写真b)を残して、本人なりに納得のいく場所(岩の下 写真d)まで、はるばる旅をした。
 その旅の様子を、その動き方を、是非見たかった。動物学的にも興味深い発見があったに違いないのだが・・・・・。
 まー、でも、とにかく元気に暮らしている。

 いっぽう、グレには、思いも寄らない試練が待ち受けていた。
 昔から水槽にいた綺麗なメタリックブルーのルリスズメダイからの激しい攻だ。

 サンゴ礁の多くの魚は、体形が似ている相手には、別種であっても攻撃して縄張りから追い出そうとする傾向があることが知られている。体形が似ているということは、しばしば同じものを餌にする、つまり餌をめぐってライバルになりやすいからではないかと考えられている。

 私は、グレとルリスズメダイとは体形が似ており、だから古参のルリスズメダイがグレを追うのではないかと推察している。

 ルリスズメダイからの執拗な攻撃を受け続けるグレに残された道は2つしかない。ひたすら耐え続けるか、グレて不良になりルリスズメダイに反撃するか、だ。

 グレは前者の道を選んだ。選んだというか、ルリスズメダイが強すぎて、そうするしかなかったのだ。
 グレの尾びれや背びれの先端は、見る間にぼろぼろになり、われわれは、ルリスズメダイ(以後、ルリちゃんと呼ぼう)の、その姿に似合わない気の強さに圧倒され、同時に、グレをつれて帰ってきたことに後悔の念を感じはじめていた。

 そんなとき、Yくんの提案で、水槽に、プラスチック製の小さい昆虫飼育容器を入れたのだ(上の写真を見ていただきたい)。
 容器の中には石も入れ、グレの避難所になるかもしれないと期待したのだ。
 すると、そのねらいが見事に当たり、グレ(写真a)は、そこを避難場所として巧みに使い、時々外に出て餌を食べ、エメちゃんが近づいてくると避難所にとび込んだ。エメちゃんは避難所の中へは入ってこなかった。

 グレちゃんの体は見事な回復を見せ、表情にも安心感と言うか、自信と言うか、そんなものが漂いはじめた(下の写真を見ていただきたい)。

 私は今、魚の心理、思考などに特に興味をもって日々暮らしている(それはちょっと大げさに言いすぎだろ。ハイ言い過ぎました)。
 最近、いわゆる本能的な習性としての行動ではなく、明らかに、体験を通して学び取ったと思われる、異種の魚同士の協力についての、信頼のおける報告を多数目にしている。
 たとえば、サンゴ礁に棲むウツボとハタが協力して行う狩(ハタに追われてサンゴの割れ目に逃げ込んだ小魚をウツボが割れ目に入って追い出す)である。
その協力には、互いに、協力の相手を探す過程も含めて、複雑な事態を理解する能力が求められる。

 魚の思考は、われわれが漠然と思っているよりかなり深いようだ。
 グレちゃんの行動を、私は、固唾を飲んで見つめている(それはちょっと大げさに言いすぎだろ。ハイ言い過ぎました)。