Pages

2015/10/08

やっぱりコウモリも七味唐辛子は辛いんだ!



 私は今、ユビナガコウモリというコウモリを対象に、七味唐辛子を使った実験を行っている。
 笑ってはいけない。「ユビナガコウモリはどれくらい視覚で物の認知をしているか」という、とても価値のある実験なのだ。

 私が考え付いた素晴らしい実験方法なので(発表までは)詳しく言えないが、目的は、「ユビナガコウモリはどれくらい“視覚で”物の認知をしているか?」という、おそらくこれまでだれも学術的に調べたことがない問題を探ることだ。

 実験では、ユビナガコウモリの学習を利用する!(専門家なら、この一文で実験のおおかたの形態を描き出すだろう。すでに私の実験はかなり進んでいる)。
 コウモリたちには餌として主に、ミールワームを与えているのだが(彼らはとても喜んでミールワームを食べる)、ある条件では、七味唐辛子をまぶしたミールワームが与えられる。そして、その条件が視覚刺激と結びついており、その視覚刺激が認知できれば、彼らは、その視覚刺激を嫌がるようになると予想されるのだ。
 
 ところで、実験に先立っては、「コウモリも七味唐辛子を、辛い!と感じるのかどうか」を確認しておく必要があった。
「そりゃあ、七味唐辛子はどんな動物だって辛いと感じるに決まっている」と思われるかもしれないが(私も、自分で実験に使う七味唐辛子をなめてみて、そう思った)、それは安易過ぎるというものだ。それは、悪い意味での「常識」に過ぎない。科学は常識から疑わなければならないのだ。確かめる必要がある。

 選ばれた個体は、コウちゃんと呼ばれている元気な雄だ。
 口先に、七味唐辛子をまぶしたミールワームを近づけると、なんとコウちゃんは、それにとびつき、もぐもぐと美味しそうに食べるではないか。
 私は、「コウモリでは、辛さを感じる受容体が発達していないのかもしれない。これもまた発見だ!」とワクワクしながら経過に注目した。
 はたして、しばらくするとコウちゃんは、急に首を激しくふりはじめ、ペッペッとばかりに、半分は食べてしまった“七味唐辛子をまぶしたミールワーム”を、唐辛子の粉とともに吐き出したのだ。

やっぱりコウモリも七味唐辛子は辛いんだ!

私はこれなら、やはり、実験に七味唐辛子が使える、と納得したのだった。
コウちゃんのその後?
大丈夫だ。コウちゃんはその後、体調を壊すこともなく、元気に実験に協力してくれている。

 もちろん実験が終わったらコウちゃんも、実験に協力してくれた他のコウモリたちも、ねぐらの洞窟へ戻してやる。最後の餌をあげてから“さよなら”するのだが、結構、寂しいのだ。