今日は、私の研究室の飼育容器の中で、静かに紙をかじっているヤマトシロアリについてお話したい。
なぜ飼っているかというと、それは、私がヤマトシロアリを好きだからだ。
ヤマトシロアリは、イエシロアリほど家屋への害はない(でも、少しは害を与えることもなきにしもあらず、らしい)。
里山へいってその気で探すと、必ず、倒木の中やその下で見つけることができる。倒木や枯葉を分解する健康な生態系にとって欠かすことのできない生物だ。
シロアリは、その腸内に、木質繊維を分解するたくさんの原生動物やバクテリアを飼っている。私は学生実習で、顕微鏡でそれらの原生動物を見てもらっている。先日の実習で、私がこれまで見たこともない、かなり大きくてインパクトのある種類をある学生が見つけた。下に、動画と写真を載せたのでご覧いただきたい。
ところで、京都大学の杉浦健二さんは 「シロアリ 女王様、その手がありましたか!」(岩波書店)というとても面白い(学術的にもとても価値のある)本を書かれている。その本の中には、「生物個体は遺伝子が設計した、自分たちが増えるための乗り物だ」という、進化に関する仮説(そういう内容の仮説は、一般的には“利己的遺伝子説”と呼ばれる)を支持するご自身の研究がわかりやすく書かれている。
また、本には、シロアリの習性に関する驚くような話も紹介されている。たとえば、「シロアリは水中でも一週間も生きる」とか、「シロアリの卵に擬態して(姿を似せて)、シロアリの巣の中でうまく生きているカビ(!)がいる」とか・・・。
私が興味をもっているのは、ヤマトシロアリの道直し行動だ。
シロアリは、巣から出て餌を見つけたとき、巣と餌の間に、土や木くずで、中がトンネルになった通路(蟻道)をつくる。体表に黒い色素をもたないシロアリたちは、体に日光が当たるとダメージを受けるので、トンネルの中を移動するのだ。
そんなシロアリの通路に、私はときどき、いたずら心で、穴を開ける。するとその部分にはシロアリたちが集まってきて、最初は右往左往しているのだが、やがて協力して穴を修復しはじめる(その動画も添付しました)。
わたしはそんな彼らの行動を見ながら、“生命のこと”、“脳のこと”、“進化のこと”、“感情のこと”、“今晩の食事のこと”(これは冗談)など、いうなれば、小さな宇宙を感じながら、しばし物思いにふけるのだ。
シロアリの腸内で見つかった、ちょっと変わった原生動物
シロアリの顔は結構かわいい
シロアリの巣の前に、彼らが好きな餌(ティッシュペーパーを水に濡らして丸めたもの)を置いておくと、シロアリたちは一番近い餌に通うための通路をつくる。
シロアリの腸内の原生動物たち
シロアリ道直し