先日、ゼミ生のNくんと山に調査に行ったとき、ツキノワグマに会った。会ったというか車の左側の斜面を林に向かって歩いて行った。
死んだ個体や捕獲された個体は何度か見てきた。でも、野生の中を行く個体に出会ったのは初めてだったのだ。長く願ってきた思いがやっと叶った。うれしかった。
結構な迫力だった。
これまで私は、同僚の先生たちや学生たちと話をしていて、クマのことが話題になったとき、「私なら、突然近距離で出会ってしまったとき、ツキノワグマくらいなら、懐に飛び込んで前肢と牙の攻撃を無効にし、内側から鉈でガツンと。そうやって逃げるね」といった発言をしてきた。同僚のN先生も同意見であり、盛り上がっていた(やはり同僚のK先生は、先のとがった測量用のポールで、距離を取って応戦する、ということだった)。
でも、今回の成獣のツキノワグマを目の当たりにして、これまでの発現は、当分、控えようと思った。
ちなみに、先日(私が野生のツキノワグマに出会ったもっと前)、同僚のS先生が、学生たちの野外調査でも使うことがある地域を車で走っていて、前方にツキノワグマを発見し、写真入りで知らせて下さった。
私は、「いいなーーー。なんでこんなに願い続けている私の前には出てきてくれないの」と思った。でもS先生が言いたかったのは、「ツキノワグマに出会いましたよ!(ウレシイ)」では、けっしてなかった。「学部の先生たちや学生たちに知らせたほうがいいでしょうか」ということだった。教員として立派だ。
私は、心からの思いをいったん横に置いて、S先生の立場に立って、学部の先生方にメールを送った。「先生方、学生たちを連れてそちら方面に行くときは注意しましょう」
もう一つちなみに、ゼミ生のMさんは、卒論でツキノワグマの行動圏について、鳥取県からいただいたGPSデータをって、年齢差、性差との関係を調べた。
Mさんも、私と同じように、心から、そう心から、野生のフリーなツキノワグマを見ることをと願い、山々を歩き回っていたのだがその願いは実現していなかった。
「一回は会いたいよな」と、よく話していた。
私がツキノワグマに出会ってから数日後、Mさんに廊下で会ったので、言っておいた。
「ツキノワグマを研究するのなら、最低限、一度くらいは野生の個体と会うくらいのことは体験しておかないとな。まー、基本でしょ」
Mさんは最初、私の変貌ぶりに唖然としていたが、そのあと、たぶんいろいろな思いを込めて(!)悔しがっていた。同時に人間不信になったにちがいない。
Mさん、冗談、冗談。冗談だよ。