あなたは、車の行き交う夜の道路で、横断歩道を渡るカニに出会ったことがあるだろうか。
私は、もちろん、ある。
今日である。生まれてはじめての体験である。
大学から帰る途中、国道9号線(!)に出る交差点で、赤信号で止まっていたら、目前の横断歩道を、小さな生き物らしきものが横断しているではないか。
私はそれがすぐ、カニだ、と分かった。私くらいの研究者になるとわかるのだ。下の写真の中央ちょっと下の白線の上の黒い点だ(その”黒い点”を拡大したのが下のその下の写真だ。明らかにカニだ)。私は写真を撮って、すぐさま助手席の後ろに置いている昆虫採集用の網をもって車から飛び出した。
もちろんいくら横断歩道とはいえ、ヒトの運転手が「カニが歩行中だな」と言って車の止めてくれることはまずない。
カニを助けなくては!
私はなんでこんなところにスナガニがいるのか、にわかには信じられなかった。
スナガニについてご存知の方は、私の気持ちがお分かりになるだろう。
でもとにかくスナガニだ。どうする。
そのとき私の頭に浮かんだのは、その場所の近くが、私がフィールドにしている海岸だ、ということだ。鳥取港の近くだ。そしてその砂浜にはスナガニがたくさん暮らしている。
ちょうどいい。久しぶりに夜の砂浜に行ってみるか。
最近、体調が最悪でもありちょっときついかなーと思ったが、逆になんだか行ってみたくもなった。
体調の悪い時の苦しさを乗り切る何かがひょっとするとあるかもしれない。スナガニも行きたそうな顔をしていた。
そして下の写真が、その砂浜だ。
”何か”はなにもなかった。遠くに光るイカ釣り船の灯りと、埠頭の赤く点滅する明かりとが打ち寄せる波の向こうにあった。
スナガニは砂浜を勢いよく駆けていった。