先日、研究室にある女子学生が訪ねてきた。
「なんか元気がなくて、大丈夫かどうか心配なんです」という話だった。
その日からさかのぼること約1週間、彼女は一度ヘビ(アオダイショウ)のことで相談にきていた。
「冬眠させていたヘビが動き出したのでそろそろ餌をやってもいいですか」ということだった。
ヘビの冬眠については昨年の暮れにも相談を受けていた。彼女がヘビを捕獲したのは、確か、もうヘビ類が、ほどんど冬眠に入るころだったと思う。「餌はあげないほうがいいよ」とアドバイスしたのを覚えている。冬眠のさせ方についても知っていることを話してあげた。
私もアオダイショウを飼育しており、その子もずっと冬眠していた。そして、10日ほど前に、暖かくなったしもういいだろう、と、今年初めての餌を与えたところだった。
ちなみに、私のヘビへの餌やりは、「スーパーで買ってきた鶏肉の小片をピンセットでつまみ、ヘビの喉の奥に入れてやる」という方法だった。
生餌はもちろん、冷凍マウスなどを与えることはしたくないので、このような方法を、試行錯誤で考えだしたのだ。
餌をやるととき、私が、ヘビの体を握る、つまり拘束する、という点がちょっとエレガントでないが、慣れてくると、ピンセットでつまんだ鶏肉近づけると、ヘビは自分から口を開けることもある。とにかく、その方法でヘビが元気に過ごしている。
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「冬眠させていたヘビが動き出したのでそろそろ餌をやってもいいですか」という質問に。もちろん私は、「そろそろいいよ」と答え、餌のやり方についても、小林方式を教えたあげていた。
先日の相談では、そのヘビが、元気がなくてほとんど動かず、心配になったというわけだ。
大学にもってきているということだったので「じゃあ、見てあげよう」ということになり、初めてそのヘビに対面した。
肌の艶といい太さといい、体の姿勢といい、動かなくてもまったく問題ない、大丈夫!と彼女に言いながら、飼育容器の中でじっとしてるアオダイショウを手にとってまじまじと顔をみた。なかなかチャーミングな顔をしている。
彼女に聞いてみた。
「餌はどうなの?」
彼女が言った。
「食べますよ。」
ところがそれからの数回の言葉のやり取りの中で、彼女は、私が、聞き流すにはちょっと(かなり)刺激的過ぎることを口にしたのだ。
「鶏肉を小さく切って乾かしておいて、それを水にふやかして、ヘビの口の辺りに置いておいたら、自分から食べます。直接は見てはいないですが、鶏肉がなくなっているので確実に食べていると思います。」
・・・・・・その方法は、私が苦労して編み出した、ヘビへの餌やりの“秘伝”よりもずっとナチュラルで簡単ではないか!
実は、彼女の動物飼いのテクニックには日ごろから一目置いていたのだが、ヘビへの、そんな餌のやり方をいとも簡単にやってのけるとは。
小林流「ヘビ餌やり法」を編み出すまでの私のあの努力は一体なんだったのか。
「あなたは天才だ」と言いながらその場を後にした私だったのだ。
ヘビ飼いの名手、そして彼女の名は、「ハブ」さんだ。
※“彼女”の名前の公開の了解は得ています。ハブ流の餌やり法についても今度了解を得て使わせてもらおう。トホホホホ。