上の写真は、キクガシラコウモリの母親(左)と仔(右)である。研究のために飼育している。
仔コウモリはなんとも愉快な姿ではないか。体の大きさの割りに、とても大きな耳、写真では見えないが超音波を発するための大きな鼻・・・、母との超音波による交信(送信と受信)が命綱である仔コウモリの進化的適応を如実に物語っている。
下の動画中で、仔コウモリは母親のほうへ可聴音も混じった超音波を一生懸命、発している。画像には写っていないが、やがて母親は仔コウモリのところへやってきて授乳をはじめる。
ところで、私は、仔コウモリに乳をあげなければならない母親の負担を少しでも軽くしてあげようと、また、単純な好奇心から、仔コウモリにウシの乳(つまり牛乳)を飲ませた。
スポイドで口に近づけると、仔コウモリは、スポイトの先を口に入れて勢いよく牛乳を飲んだ。
私は、「あーっ、これ(つまり牛乳)は仔コウモリの副栄養剤として役に立つわ」と数日与えていたのだが、動物を飼うことにかけては天性の才能をもっているゼミ生のHさんから、「仔コウモリに牛乳はよくない」と言われた。
彼女が調べた結果、仔コウモリには、母親の乳以外だと、ヤギの乳かヒトの乳がよいのだという。
素直な私は、それを聞いて、その日にすぐ牛乳をやめ、帰りに薬局に寄った。
ヒトの乳を買うためである。もちろん、本物のヒトの生乳は手に入らない。それなら、「ヒトの赤ん坊用の粉ミルクの素」を湯に溶かして与えてやろうと思ったのだ。
次の日、仔コウモリに“ヒトの乳”をあげると、牛乳と同じくらい勢いよく飲んでくれた。
私は、“ヒトの乳”が入っている紙コップを机の上に置き、私が苦手なデスクワークに立ち向かおうと、まずはコーヒーを飲むことにした(立ち向かってないじゃん!)。
そして紙コップにコーヒーを入れ、それを“ヒトの乳”が入っている紙コップの傍に置いたのだ。
と、その時、電話が鳴り、私は事務方の人と結構複雑な話をすることになったのだ。
込み入った話を続けているとだれでもコーヒーが飲みたくなる。
私はコーヒーが入った紙コップを持ち、口に運び、そして飲んだ。
なんじゃ!この味は!
私はなぜヒトの赤ん坊用のミルクを飲んだか?!・・・分かってもらえたと思う。
ちなみにけっして美味しくはない。皆さんには勧めない。