数年前、私が学生たちと一緒に、キャンパスの周辺の森に、レンガとセメントでつくった池に、次の年にはもう、モリアオガエルがやってきた。
私は、“キャンパスの周辺の森”でモリアオガエルに出会ったことは、それまで一度もなかった。
少なくとも、レンガ池の周囲、半径50mには、水場はない。かれらはどこに棲んでいて、どこから、どうやって、池を見つけてやってきたのだろうか。
そもそも、かれらは、繁殖期以外は、樹上で生活しているので、その生息地に足を踏み入れても、出会うことはなかなかないのだ。手足の先端のよく発達した吸盤を巧みに使って、樹上生活を続けるのだ。
ある初夏の夜、森にあるモモンガの野外ケージから帰る途中、レンガ池で、コロ、コロ、コロ、コロという声を聞いた。
もちろんそれがモリアオガエルの雄の求愛コールであることはすぐ分かった。
なんとも、気持ちのよい声である。私は引き付けられるように、近づいていった。
ライトを向けると逃げるか、と思ったが、雄は逃げなかった。雌に向けて、一生懸命なのだろう。ハイ、写真1枚ね。
頑張る雄の隣で、私も雌を待った。「早くくればいいね」みたいな気持ちで。それに、雌に対する雄の行動も見たかったし。
でも、20分経っても、30分たっても、雌は来ない。
雄は鳴き続けた。私は、「じゃ、頑張ってね」と、頑張る友人を後に残して森を出て行った。
そして次の日。ちゃーんと、レンガ池の水の上の笹の葉には、モリアオガエルの卵塊が2つ、産み付けられていた。雌が、少なくとも2匹もやってきたのだ。
雄は、きっと徹夜で鳴き続けたのだろう。
卵塊の表面は乾燥して、水分を含んだ泡の中で、卵は孵り、オタナジャクシは雨を待つ。雨が降ると、卵塊の表面は破れ、オタマジャクシたちは、下の水場に落ちていく。うまくできているよな。
レンガ池も生態系の一部に取り込んでもらったということだ。