写真は、上から順に、ユビナガコウモリ、モモジロコウモリ、キクガシラコウモリである。研究のために私が大学で飼育している(捕獲や飼育のためには国や県からの許可が必要だ)。
どのコウモリも可愛くて個性的な顔をしているでしょう! 私は、彼らの形態や行動、動作の魅力に魅せられて、かなり前から研究対象にしている。
ニホンモモンガについても研究しているので、コウモリ類とあわせて、「空飛ぶ哺乳類」と呼んでテーマにしている。
私にとってのコウモリの魅力については、現在書いている本(築地書館からシリーズで刊行している本の第9弾)のなかで紹介しているが、ここでは、そんなコウモリたちが、一般的には、忌み嫌われる動物として受け取られている理由を考えてみたい。
彼らが嫌われる理由の一つは、たとえば日本で、人家の屋根裏などを宿にするアブラコウモリなどが排出する大量の糞だろう。彼らが夜の空中で食べる虫の量は半端ではなく、宿に帰って排出する糞も多い。
天井に糞をされたら家の人が困るのも仕方のないことだろう。
そして、もう一つのコウモリが嫌われる理由(こちらの理由が本質的なのだが)は、不吉さ、怖さ、吸血・・・といった、誤って植え付けられた印象である。
ちなみに、ヒトの精神的疾患の中に、特定恐怖症と呼ばれるものがある。そして、特定恐怖症の対象になるものは、「高所」、「暗闇」、「閉所」、「水流」、「雷」、「血」、「ヘビ」、「猛獣」、・・・・・等である・
とても不思議なのは、現代社会において、(病気以外で)死の原因になるのは、「ナイフ」や「車」、「電気」、「銃」・・・といったものなのに、それらが恐怖の対象になることはない。
これはどういうことか?
それは、「高所、暗闇、閉所、・・・は、20万年前に誕生したホモサピエンスの歴史の9割以上を占める狩猟採集生活において、死の原因になりやすかったものだ」と考えればとえても合理的に説明できる。
われわれの脳は、狩猟採集時代の構造(神経の配線)を今でも保っているのだ(脳の構造の骨格は遺伝子によって決まっており、その遺伝子は文明時代という短い時間では変化しないということだ)。
さてコウモリだ。
コウモリは、ヒトにとって、夜、つまり暗闇の動物だ。洞窟などの閉所から現れ、鋭い歯(多くのコウモリは虫を餌にするが、空中で捕らえた虫を逃さないためには鋭い歯が必要なのだ)をもつ。
つまり、特定恐怖症の要素を重複して備えているのだ(“吸血”という印象については明らかに誤解だ。世界の約1000種のコウモリのうち、血を吸うコウモリは数種に過ぎない)
コウモリ自体が危険なのではない。たまたま、彼らの活動の場面や習性が、ヒトの脳内の恐怖感知装置を響かせてしまっているのだ。
ということで、このブログを読まれた方は、是非、コウモリに対する正しい認識を持っていただきたいと切に願う。