2年ほど前の話である。
ニホンモモンガの行動や生態を調べている私は、モモンガが喜んで、長い間、使ってくれるような巣箱を設計した。
丈夫な板の箱の中に、ビニール製の箱(大型のタッパー)をスッポリ入れ込んだ構造の巣箱だ。
ニホンモモンガは、巣材には必ずスギの樹皮を使うのだが、雨が降っても巣材は濡れないからモモンガも喜んで使うだろう、と考えたのだ。
ところが、私のもくろみは成功したとはいえなかった。
数匹の心優しいモモンガは、利用してくれたが、概してモモンガたちの評判は悪く、設置した8割がたは、使ってくれなかったのだ。
ところが、それを気の毒に思ってくれたわけでもあるまいが、なんと、その巣箱を、シジュウカラが使ってくれたのだ。
「なんと」と言ったのは、シジュウカラにとってその巣箱はとても大きく、まさかシジュウカラが使うとは思っても見なかったのだ。
ある日、(モモンガの!)巣箱の点検に行って、シジュウカラの巣(それも可愛い卵が5つ産み付けられた)を見たときには、正直、驚いた(と同時に、その美しさに目を見張った)。
よくもまー、シジュウカラの親は、こんなたくさんの巣材(苔が中心で、卵が乗る産座はスギとシカなどの獣の毛)を集めたものだ!大変な作業だったに違いない。
でも気の毒に、親鳥は、雛の誕生を見ることなく命を落としたらしい。
はじめてシジュウカラの巣を発見して、大急ぎでもとに戻してから、ほぼ一ヶ月後、点検してみると、巣と卵が、一ヶ月前と変わらぬ状態で巣箱の中にあった。
私は、親鳥の努力や、その自然の力の美しさをを人類たちに伝えるべく、研究室に置いて、おとぅれる人類たちに見せ、語っているのだ。
人類たちは、私が言わなくても、その美しさに自然に目を奪われ、私に質問をすることが多い。私は親鳥になりかわって、大変だったその作業のことを話して聞かせているのだ(おそらく、こうじゃなかったかなーと想像しながら)。
「人類は、自然の中の何者かを心で受け止めてくれるじゃろうか。」・・・いつのまにか、自然の化身のような気持ちになっている私でした。
オシマイ