網袋に入っているヘビのニオイを嗅いで(上)、直後に猛スピードで逃げ、離れたところからじーっと様子を見る(下)
ヘビの姿は見えても、ニオイがしなければ、全く怖がらない!
すべてのヤギが、というわけではないが、たいていのヤギは、ヘビの“ニオイ”をとても怖がる。
ヘビを、姿だけが見えてニオイは漏れないような透明の水槽に入れて置くと、ヤギは、ヘビのすぐ近くに来ても、全く怖がる様子もなく草を食べ続ける。
ところがだ。網の袋に入れて何回か巻き、姿は見えないけれど、ニオイは漏れる、という状態にしておくと、なんと、ヤギは、そのニオイを嗅ぐやいなや、突然身をひるがえし、猛スピードで逃げるのだ。逃げて、逃げた先から、ヘビ(のニオイの発生源)のほうを注視する。
記事の一番下に、先日撮った動画を公開した。
昨年生まれて、まだ一度もヘビに出合ったことがない双子の仔ヤギ(7ヶ月齢)の反応を調べよるために、彼らの近くに網袋に入れたヘビ(アオダイショウ)を置いて、様子をみた。
仔ヤギ達は、ニオイを嗅ぐと、脱兎のごとく逃げていった!
ちなみに、その様子は、動画には入ってない。動画は、その事件の後、もう一度、台の上で、彼らにヘビを提示したときの様子である。反応の激しさは和らいでいるが、でも明らかに、かなり怖がっている。
そして動画の後のほうで、1歳数ヶ月になるコムギという名のヤギが近づいてきて、ニオイを嗅いで、稲光のように逃げたのが映っている。
よっぽど怖かったに違いない。
ところで、(またいつか写真や動画入りでご紹介するが)意外にも、ヤギは、餌としての植物の葉については、ヘビと真逆の認知を示す。
つまり、植物の葉は、ニオイがしても姿が見えなければ関心を示さないのだ。
一方、ニオイはしなくても、姿が見えれば、(透明ガラスで遮られていても)食べようとして口を押し付ける。
この現象は(私がおそらく世界ではじめて発見したと思うのだが)、ヤギの生きている認知世界を知る上でとても興味深いではないか。
ヤギは哺乳類だから、ニオイを一番の手がかりにするのでは、と漠然と考えていた私の予想は、まんまと外れたのだ。
そして、私は結果を謙虚に受け止め、ヤギがそんな認知特性をもつ理由を次のように推察している。
ヤギの祖先は、中東アジアの、岩場の中に草場が混じる乾燥した土地に生息するノヤギ(別名パサン)に近い種類だったと考えあられている。
おそらく、遠くから緑(草場)を見つけ移動して食べていたのだろう。
そんな環境では、餌の認知をニオイに頼っていたのでは無理がある。視覚を利用するほうがずっと適応的だ(ヤギは色の識別もかなりできることが知られている)。
一方、ヘビ(毒ヘビもたくさんいるだろうし、ヤギにとって危険な存在だろう)は、岩場の石の陰や草村に潜んでおり視覚で早く見つけることは難しい。それに、ヘビはとぐろを巻いたり長く伸びたりして形も一定しない。
そんなヘビの発見には、視覚より、偶然近寄ったとき漂ってくるニオイに反応したほうが適応的だろう。
なんか、今日は、アカデミックな内容になったりして。
やる気になれば、私にだってできるのだ。