昨日、北海道へ卒業旅行に行ってきたというKaさんが研究室に来て、楽しかった北海道での話をして、お土産を置いていってくれた。
Kaさんが帰ったあと、袋に入ったそのお土産を見た私は、嬉しさと、もう一つ別の思いに、思わずニヤッとした。
それは、Kaさんが3年生だったとき、ゼミの合宿で鳥取県芦津渓谷のモモンガの森に行ったとき起こったある事件を思い出したからだ。
もちろんKaさんも、その事件を意識して買ってきた土産であることは、間違いない。
(今命名したのだが)世に言う「小林騙しモリアオガエルin モモンガの森」事件なのだ。
事件の概要は、私は自著「先生、ワラジムシが取っ組み合いのケンカをしています!」に書いている。
その部分だけを以下に抜き出しておく。なぜ私がニヤッとしたのか、なぜKaさんはモモンガと、そして“アマガエル”(アマガエルとモリアオガエルは近縁で、サイズこそモリアオガエルのほうがずっと大きいが、見た目、よく似ている)を土産として選んだのか、充分理解していただけると思う。
ちなみに、その本は、とても面白い本なので、まだ読んでいない方は是非読んでいただきたい。
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・・・・・・ところで、ちょっと話は変わるが、モリアオガエルをめぐって、私は学生たちにまんまと騙されたことがあった。私の、一生の不覚というか、私はそのときのことを一生、忘れないだろう。
本章で二年生の実習が終わってから一ヶ月ほどあとの話だ。
私のゼミの合宿で、芦津の森に来たときである。私はいつものように、モモンガの調査用の梯子を荷台にのせた、大学の軽トラックで来ていた。10人ほどの学生たちは、何台かの車に便乗してやってきていた。
夜、宿泊する予定のコミュニティーハウスに、一旦、荷物を置き、モモンガの調査地の近くまで登ってきて、谷川の近くに車を止め、そこでカレーを作って皆んなで食べた。
その後、学生たちの多くは、谷川で水生動物を採集したりして過ごし、SくんとHくんとTさんと私は、それぞれの研究を行なうために森に入っていった。
そしてしばらくして、車を止めている場所に戻ったのだが、事件はその直後に起きた。
私は、調査道具を車に置こうと、軽トラに近づいたのだが、何と、白いドアに、鮮やかな緑色に特有の茶色のまだらが入ったモリアオガエルがくっついているではないか。姿形といい、体色といい、それはモリアオガエルだった。指に大きな吸盤をもつモリアオガエルのことである。木の下に止めていた車に、木をつたってやってきたとしても、そして、車のドアにくっついていたとしてもなんら不思議はない。それより、こんなきれいなモリアオガエルが、森からこんなところにやってきてくれたことに感動し、学生思いの私が、その感動を学生たちにも分けてあげたいと、純真な私は思ったのである。
モリアオガエルが、なんと車の側面にくっついているではないか(左写真の→の先).芦津渓谷ならそれも不思議はない。私はカエルを驚かさないように角度を変えて写真を撮った。
私は、学生たちに(全員が、妙に、軽トラの近くにいることに多少、違和感を覚えながらも)、大きな声で言ったのだ。
「おーい、皆んな、こんなところにモリアオガエルがいるよ」
「芦津の森にはモリアオガエルがたくさん生息しているんだけど、トラックにくっついたりするモリアオガエルは珍しいねー」・・・・みたいなことを。
そんなことを言いながら、写真を撮っておこうと思い、カエルを驚かさないように、驚かさないように、ゆっくり、ゆっくり、カメラを構えて近づいていった。
と、次の瞬間、信じられないことが起こったのだ。
学生のKaさんが、何と、背後から私を追い越してトラックに近づき、こともあろうに、片手でカエルをさっと取って、取って(!)行ったのだ。
カメラをもったままその場に取り残され、あっけにとられた私の頭には、二つの思いが駆け巡っていた。
「私のモリアオガエルが・・・・・」、そして「あんなに簡単にカエルを捕まえていったKaさんはいったい何者なんだ」
その後のことはよく覚えていない。
気がついたら、後で学生たちが笑ったり歓声を上げたりしている。
そうなっても私には何が起こったのか分からなかった。
やがて、Kaさんが私のほうにやってきて、手のひらを広げた。すると、そこには、黒い円盤を腹につけたモリアオガエルが、まったく動くことなく仰向けになっていた。
やっと状況を理解した私を見て、学生がもう一度笑った(一昔前の、青春物の映画の一場面にでもなりそうな出来事ではないか。でもこれは本当のことなのだ)。
いずれにしろ、私は、フィギュアのモリアオガエルを、フィギュアだと見破れなかったのだ。でも、そのフィギュア、とてもよくできているのだ。手にとって見て、その出来に私は感心した。でも、動物学者として恥ずかしかった。でも、学生たちの行為は、むしょうに嬉しかった。
そして、フィギュアを前面にして、主役の学生たちを後方に、取った記念写真が下のものである。
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