直近の例ではリーマンショック。株式市場を襲うネットバブルのような現象に、典型的に、また劇的に見られるような「経済の動き」は何によって決まるのか。
その“何”の正体は、ホモサピエンスが(細かい点ではさまざまな環境変動があったものの、ホモサピエン史の9割以上を占める、安定して続いた)狩猟採集時代に、進化的に適応した脳のクセ(癖)である。動物行動学的にはとてもとても妥当な仮説である。
2002年、経済学者のカーネマンは、基本的にはその仮説と一致する、経済学における新しい視野を提示したことにより、ノーベル経済学賞を受賞した。
身近な小さな経済活動の例を一つあげよう。
鳥取県では、現在、スーパーにマイバッグをもっていかなければ、スーパー側が用意する袋の代金(5円)が取られる。そして、多くの消費者が、スーパーへ行くときはマイバックを持参している。
ところが、この制度の開始に先立った移行期間には、本質的には上と同じことなのに、次のような制度では、消費者は、あまりマイバッグを持参しなかった。
「マイバッグをもっていなければ、代金はそのままだが、マイバッグを持っていくと、5円の還元(利益)がある」
つまり、ホモサピエンスの脳は、5円を巡る同じ出来事でも、それを、合理的ロボットのように計算して行動を決める機械ではなく、同量であっても「損失」は「獲得」より大きいと感じるのである。
狩猟採集時代、今、もっているものは確実だ。だがこれから獲得するものは(それが数秒後であっても)、確実だとは限らない。自然界では、突然の捕食者の出現や他者の横取り、獲得する予定のものが予想通りのものかどうかの不確定性、等々、・・・・実際に、「損失」は「獲得」より価値があったのだ。
そのような癖(ただし、くどいようだが、適応的な癖)をもった脳が、現代社会でも作動し、「経済活動」の方向に大きな影響を与えている、というわけだ。
昨日の某新聞が(ほとんどの新聞がこの話題を取り上げただろうが)、「東証14年ぶりの高値 :進む株高」と報じた。
そして、その経済的な動きを導いた裏には、「日銀や年金基金団体による下支え」があった、解説している。
大手組織が株を(少々無理してでも)買うことにより、株価の下落をやわらげ、投資家が不安になる(不安になって売りに転じると株価は下がる)ことを抑制した、ということである。投資家に安心感を与えているのだ。
私は思うのだ。経済の真っ只中で動いている政治家や経済人は、学術的な経済学理論が進展する間も(その前から?)、経済の本質を直感的に、また体験的に知っていたのだ。「経済は感情で動く」ことを。
転じて、アベノミクスだ。
アベノミクスは正しい政策だ、と言う経済学者もいる。間違っているという経済学者もいる。
再び、私は思うのだ。「それは経済理論の正しさの問題ではなく、国民が、アベノミクスを構成する一つ一つの政策に、どのように心を動かすか、にかかっている」と。
私も経済には関心がある。それは、ホモサピエンスの動物行動学だからだ。
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